6月2日発売のSQさんよォ…分かってたぜ。待ってるからな。
でもできれば再来月には載せてください。
さてさて、
以下はおはなしです。
ただほの暗いです。そして蒼操っちゃあ蒼操ですが甘くないです。
書いたのは私なのでエロくもグロくもないです。
が、お読みいただいたあとの苦情は受け付けませんので、閲覧は自己責任でお願いいたします。
ーーーーーーー
指先が震える。悪寒が止まらない。
世界が雑に歪み、足元がぐらついた。
しくった――、と思う。油断した。まだ大丈夫だろうと高を括っていたが見込みが外れたのだ。それで頭に血が上ったのがいけなかった。それからは驚くべき速さで限界が回ってきた。
震えと悪寒。吐き気。焦燥。
寝台にどさりと座り込むと、木の乾いた音がした。ぎいというその音すら腹立たしい。ともかく早く――、煙管に縋り俺は息を深く吸い込んだ。
ただ呼吸する、たったそれだけがもどかしく、たったそれだけに必死になる。貪るように煙を吸った。
煙管は此処に来てから覚えた。
火さえ起こせれば何処でも吸える。白煙と臭いにはとうに慣れ、最近はもっぱらこれに頼り切りであった。
すると段々に揺れていた視界が明瞭になり、耳鳴りが消え、震えが止まっていった。心に静寂と安堵が満ちてくる。助かった――。歓喜にも似た思いで瞑目した。
「あおしさま?」
しばらく平静に呼吸を整えていると、心配そうな声が聞こえた。
目を開いて視線を落とす。俺の膝に手を添えて、いつの間に入ってきたのか、操、が、不安げにこちらを見ていた。
「だいじょうぶ?」
今にも泣き出さん勢いで訊かれる。俺は微笑って――それだけの余裕ができた。微笑って、操の頭を撫ぜる。
「心配してくれたのか」
「うん」
「そうか」頭から頬へ手を滑らせる。「大丈夫だ」
「ほんと?」
「ああ」
「よかったあ」
操はふにゃり笑って、俺の腿の上に顔をつけた。安心すると照れたのか、ぐりぐりと頭を押しつけてくるので、俺は再び頭を撫でてやる。俺の心は最早完全に凪いでいた。ああこれだ、この感覚。胸が満たされ、考えようにも面倒で好かぬことは浮かばず、身体がふわりと軽くなる。そんなときには決まって操がおり、こうして俺にじゃれてくるのだった。
「操」
「あおしさま、明日もおしごと?」
「ああ」
「やだあ。みさおとあそんで?」
「そうだな。午後にはそうしよう」
「えー、あさからがいい。あさからにしよ。一日ずうっといっしょがいい」
「一日か」
俺は操を抱き上げて膝に乗せた。「それもいいな」
「ね? いいでしょ」
一層嬉しそうに笑って、操が俺にしがみつく。温かい手。柔らかな背。幸福とは――この子のことを云う。不幸も不運も、今この時にはない。狂気も。しがらみも。罪悪の意識も。この子さえ掌中にあれば、俺は俺を縛る一切の煩雑から、逃れることができる。
この子さえ。
「操」
深く深く抱き込んで、俺は嘆息した。手から煙管が滑り落ちる。些事はよい。直にあの金の亡者が、見張りが如何だの雑兵が如何だのと怒鳴りに来る。それまでは。
「また上手に隠れていなさい。観柳に見つかると厄介だ」
「うん。あおしさま」幸せの形が腕にある。「だいすき」
「みさお。……今度、お前の欲しいものを買いに行こう」
「ほんと?」
「ああ。なんでも買ってやる」
何、金ならある。なんならあの巣窟から、余分に頂戴してくればいい。
阿片の一袋がなくなろうが、誰も気に留めまい。
「でもその前にあおしさま、くものす、またもらってこなきゃね」
操が嬉しそうに言う。
「そうしないと、みさお、あおしさまといっしょにいられない」
「ああ。そうする」
「うん。そしたらおでかけ、つれてって?」
「ああ」
転げ落ちた煙管から、白い煙が立ちのぼる。足元が霞んで見えなくなった。
ーーーーーー
るろ剣を知った頃から、「この人、こんな阿片窟にいて、ちょっとくらい吸ってしまったりしてないんだろうか」と思っていました。
薬物使用をお勧めする作品では勿論ありません。どうあれクスリは駄目です。