monaho

monahoって、エスペラントで、僧侶の意味なんですって。

うっかり見合う蒼操サンプル

 わーい! 画面が涼やか!

 飛天プリンスホテルをイメージした(つもりだった)暗めでシックな画像から、夏なので、暑いので、見た目だけでも涼しげなデザインに変更しました。

 涼しいや。暑いけど。

 

 さて、

 昨日はあまりの興奮にマトモな言葉が出てこず、感謝の気持ちすら全然伝えられなかったので、今日はその反省を生かして、アップするものを見つけました。

 

 予告編です。

 

 マキシさんリクエストの「うっかりお見合いを受けちゃう操と、それを聞いて嘘!?となる御頭」の予告編になります。

 いよいよリク企画も佳境だ~~~~!!! 楽しかった~~~~!!!

 ではボタンからどうぞ!

 

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蒼紫さまのことは好き。
 いつから? ずうっと前から。気づいたときには。どうして? 分からない。どうしたって好き。どこが? 全部。蒼紫さまなら、丸ごと好き。例えば彼の顔に大きな傷があったって、腕や足がなくたって、心がどれだけ冷えきってしまったって、それでも好き。
 でもね、一度はやめようとしたの。蒼紫さまを好きでいるのを。彼が敵に回って、あたしの大事な人たちを傷つけたから、もうやめようと決めた。あたしの好きだった蒼紫さまはもういない。死んでしまったのだ。みんなの言う通り、あたしの好きは、本当の恋じゃなかったのだ。そう言い聞かせた。蒼紫さまの他に、きっともっといい人がいる。仲間を傷つけない、あたしを一人ぼっちにしないような、いい人が――そう考えて、驚くくらい身体中が冷めた。そのときはそれで落ち着いたの。
 でも、それもたった少しのあいだだった。
 緋村が、蒼紫さまを連れ帰ると言ってくれたとき。その約束が守られたと、般若くんが知らせに来てくれたとき。夜更けに、本当に彼が帰ってくるのを見たとき。ああ、あたしは蒼紫さまを好きでいていいんだ、と思った。やっぱりあたし、蒼紫さまが好き。例えどんなことになっても、許してしまうの。好きなものは好き。この気持ちを抑えつけても、なんにもいいことはなかった。誰がなんて言ったって、あたしは蒼紫さまが好きなの。あたしの全部を懸けて、蒼紫さまの全部を、好きでいるの。
 若い。
 十八の娘だが、そう思わずにはいられなかった。――若い、若いよ、ちょっと前のあたし。そりゃあ誰かを好きでいるのは勝手だよ。恋多いからって捕まるわけでもなし。それで付け回すようなら、またちょっと別だけど。嫌いな人を増やすよりは、そりゃ、好きな人が多いほうがいいよ。
 でもさ、あたしは好きでいても――操はのろのろと視線を移した。今日も障子は白い。規則正しく組合わさった木の枠は、複雑な乙女心には腹立たしいものでしかない。
 あたしは好きでいても、返ってくる「好き」がなきゃ、やってらんないのよ。
 操が十八になったので、十上の蒼紫は二十八になる。葵屋に落ち着いて二年。今では禅寺通いもほとんどしなくなり、代わりに密やかに外法を片す裏家業に出るようになった。普段はといえば、葵屋の主人として、帳簿や寄合やに精を出す日々。蒼紫は変わった。少なくとも人と修羅の狭間を彷徨ったあの頃とは違う。かといって江戸で過ごした少年時代ともまったく同じではない。過去の蒼紫よりもずっと静かに、ずっと穏やかになった。かつての御庭番衆御頭は、今や立派な小料亭の主だ。
 一方で蒼紫はまったく変わらなかった。変わらず寡黙だし、表情が硬いし、真面目で責任感が強いし――これはいいところだけれど。一番変わらないものといったら、他でもない、操への態度である。……あ、今ちょっと笑ったでしょ。こっちは真剣なのよ!
 蒼紫はまったく変わらなかった。十八になった操を、女扱いするわけでもなく、遠ざけるわけでもなく、付かず離れずというか、恐らくは“向こうの”ちょうどいい塩梅に据えたままなのである。ちょうどいいというのは――これは操の見地だが――お茶を出したり、適度に話し掛けたり、明るい話や面白いものを持ち込んで彼の息抜きとなったりするような立場だ。そこに不満があるわけではない。それだって操には充分な幸せだった。だから不満があるわけではない、ないけれど。
 ――あたしをどうしたいのよ。
 そこが、まったく、分からない。
 操は蒼紫のことが好きなのだ。それは本人にも幾度となく伝えている。蒼紫が知らぬはずはない。
 それなのに、蒼紫は操の「好き」に一向に返事をしない。嫌とも応とも言わないのである。前述の通り、操は“向こうの”ちょうどいい塩梅の場所に置かれているので、それをいいことに逃げられる。うやむやにして、聞き流して、或いは聞こえなかったことにして、逃げてしまうのだ。蒼紫は。
 それまでどれだけ会話が盛り上がって(一般的な基準では考えないでいただきたい)いても、操が一言、好き、といったことを伝えると、途端に話をはぐらかす。朝だろうが夜だろうが、冬でも春でもそうだった。そこに操が気づいて、「迷惑なら好き好き言わないから、どうなのか教えて」と訊いてみると、それもまたはぐらかすのだ。操の気持ちに答えを言わない。操の気持ちが迷惑かどうかも語らない。「蒼紫さまは、あたしのこと、嫌いなの?」という問いには、「お前にはどう見えている」と返されただけだった。そのときは、まさか質問を返されるとは思わなかったから、馬鹿正直に、嫌われてる……とは、あんま思いたくないけど、などと言ってしまった。いっそ嫌われているように見えると言ってみればよかったかもしれない。なんにせよ、すべてがすべて、答えになっていない。明確な答えを貰った試しがない。
 いくら馬鹿だってね、と操は溜め息を吐く。いくら馬鹿だって、あたしは女なのよ。女なんだから、それなりに察しはつくし、勘だって働くの。蒼紫さまが、逃げてる、ことくらい、分かるんだから。
 「あーぁ」
 自分を殺して組織に尽力してきたひとだから、結局あなたはどうしたいの、という訊き方に、蒼紫は弱い。あたしをどうしたいの、などと訊こうものなら、禅寺にでも通い直して理知的な答えを出してくるに違いない。そこで顔を出すのが、再びの乙女心である。
 そんな答えなら、いらない。
 操が欲しいのは、理に適った論理的で整然としていて至極真っ当な答え、ではない。差し引きして、損得勘定して、仮にその結果として「そばにいてくれ」なんて言われても――嫌だ。そういうことではないのだ。操の欲しいのは、心からの彼の気持ち。本当に思って、思って、思って、それでようやく形になる言葉。慰めで掛けられる「好き」ほど虚しいものはない。だからたくさん言ってほしいとは、今は望まない。蒼紫が、自分のことを、そばに置いておきたいと――それも侍女のような扱いではなく、女として生涯を共にしたい、と思ってくれるなら、取り敢えずは一度でいい。一度でいいから、蒼紫から確かに言葉が欲しい。
 こうやって見つめてたら、気配を察して、出てきてくれないかな。
 そんなささやかな期待を見事に裏切るのが四乃森蒼紫という男である。仕事中だから仕方ない、と割り切るには、操の恋心は熟成しすぎていた。そんなわけないか、と可愛らしく笑って看過する時期はとうに過ぎたのだ。けれど決して嫌いにはなれないから、こうして恨みがましく障子を睨むばかりだった。
 
☆中略☆
 
 ――あたしはこれから会う人の妻になるのだろうか。改めて爺やに訊く気も起きなくて、相手の人の名前も知らない。ちょっと話したくらいじゃどんな人かも分からない。今日は優しそうに見えても、本当はひどい人だったりしたら、どうしよう。それでも話が決まったら結婚? 爺ややお増さんや白さんはあたしを送り出してしまうの?
 蒼紫さまも? ――
 障子の開く音がした。
 
 
 彼から目が離せなかった。
 全神経が、彼の動きに集中する。胸がうるさい。喉まで渇く。顔が熱くなるのも感じる。
 これじゃまるで、あたしが、この人のこと、好き、に、なっちゃったみたいじゃない。
 操の正面に座った男は、紺の背広に銀鼠色のネクタイを締め、涼しい顔で操を見ていた。お互い挨拶をして、世話人の女性――母親だという――が出ていってから、彼は一言も喋らなかった。ひたすら涼しい顔で、こちらを向いているだけである。
 男女が見合いの席で、見つめあったまま、会話なし。そんなことある!? ……と、操は先程から異常な緊張感と苛立ちに苛まれている。こういうときは普通、男のほうから話を切り出すものだと思う。から、下手にこちらから話しかけるのも気が引ける。空気に負けたふうになるのも悔しいし。
 まだ一分そこらしか経っていないはずだが、何時間にも感じる……と、左之助あたりなら顎に流れる汗を拭うであろう。操はそうはせず、取り敢えず微笑んでみた。もしかしたら相当照れ屋なのかもしれない。世話人が言うには、彼は三十二になるらしい。そんな年まで縁談が決まらないということは、多分奥手なのだろう。ここは話しやすい雰囲気を作ってみるべきか。
 すると男は、とてつもなく分かりやすい溜め息を吐いた。
 なっ。ば、馬鹿にされた? と操がむっとすると、
 「あんた、長女か?」
 男がついに口を開いた。
 
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 すごく個人的なことですが、このブログコピペに弱すぎる!
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