monaho

monahoって、エスペラントで、僧侶の意味なんですって。

とうさま、ごねる

 やたら長い「ドント・セイ・ノー」に諸反応ありがとうございます!

 嬉しいです。限界に挑戦したあとのバーンアウト状態ですが嬉しいです。

 

 バーンアウト状態ついでに一本アップしておきます。

 先週のひな祭りに絡めて、必死の抵抗を見せる御頭。

 下のボタンからどうぞ~!

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 「蒼紫さまぁ。いい加減片付けようよ」
 「まだいいだろう」
 「まだって……もう一週間になるよ」
 都合の悪いことには返事をしない。蒼紫さまの悪い癖。普段から無口だからって、そういうとこ甘えちゃだめだ。
 代わりに蒼紫さまは、なあ、と小さく呟いた。一人言ではなくて、彼の膝の上にいる小さなお姫さまに向けての声だ。そのお姫さまはようやく首が座ったところで、まともなお返事はできないのだけど。で、その二人の正面にあるのが、この一週間のあたしと蒼紫さまとの攻防の原因。
 「お雛さまは三日で終わりじゃない」
 雛人形だ。
 葵屋に元々雛人形はなかった。子どもなんていなかったから当然だ。けれどあたしがここで生活するようになってから、爺やが買ってくれた。男雛と女雛、三人官女までの二段のもの。爺やはこだわる人だから、これも結構なお値段するものらしい。相場はあたしには分からないんけど。その雛飾りを毎年ひな祭りに合わせて飾っていたのだけど、十六、七になってからはしまいっぱなしだった。成長って年でもないし、その他にすることで大忙しだったから。
 で、だ。あたしたちに娘が生まれて、その雛人形が再び日の目を見ることになった。値の張るものは伊達じゃなく、久々に出しても未だに美しかった。十二単の紋様も、きらりと光る御道具もそのまま。まだ幼い娘――若葉も気に入ったようで、度々ちょっかいを出そうとしてはあたしや蒼紫さまに捕まっている。見たことのないものに興味津々なのだ。捕まると、触らせてよ、と不満げな声を上げる。
 それも可愛いから、三日まではそれでよかったのだ。
 けども。
 「蒼紫さま。早くしまわないと、若葉お嫁に行けなくなっちゃうよ」
 三日を過ぎたら、今度は蒼紫さまがごねだした。
 あたしが隙を見て雛人形を片付けようとすると、どこからともなく現れて邪魔してくる。あたしに直接なにか言ってくることもあれば、わざわざ若葉を連れてくることもある。なにがなんでももう少し飾っていたいらしい。理由は彼らしくない。雛飾りを早くしまわないと、お嫁に行き遅れる――から。
 「蒼紫さまってば」
 「そんなものは迷信だ」
 「ならいいじゃない。片付けようよ」
 「……。若葉がまだ見たがっている」
 「蒼紫さまの手で遊んでるじゃん」
 「……」
 蒼紫さまが若葉を座らせ直して、雛人形を見せた。けれど若葉はすぐにひっくり返って、ぺたりと蒼紫さまの着物にひっつく。
 「ほら。お雛さまより父様がいいって」
 そう言うと蒼紫さまが気を良くすることは知っている。でも最近の蒼紫さまは強情だ。あぐらをかいたまま動かない。そこをどいてくれないと片せないのに。
 「蒼紫さまあ。若葉お嫁に行けなくなっちゃったらどうするのー」
 「雛人形程度でどうこるなるものではない。江戸の屋敷には雛飾りはなかったが、お前は嫁に来たろう」 
 「……それはそうだけど。でももしお嫁に行けなくなったら、若葉に嫌われちゃうよ」
 「これは嫁になど行かなくともよい」
 これが蒼紫さまの本音だ。わざわざ言わなくてもだだ漏れだけど。
 「そしたら若葉に嫌われちゃうよ」
 「構わん」
 「構うでしょ。甘いんだから」
 蒼紫さまは相変わらず基本無表情だけど、若葉にはすごく甘い。すごくすごく甘い。ちょっと妬いてしまうくらいには可愛がっている。それは嬉しいことなんだけど。
 なんだかんだ言いつつも結局、あたしも蒼紫さまには敵わない。もー、と笑いながら背中合わせに座った。

 

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 そのうち娘がしゃべるようになったら、御頭は娘味方につけて「とうさまのおよめさんになるからいいの!」とか言わせるんでしょうね。