monaho

monahoって、エスペラントで、僧侶の意味なんですって。

音読最強説

 早くも「会心の一歩」に様々なアクションありがとうございます…!

 ブックマークや評価もさることながら、なんと、「これはいい」タグまで…! 

 本当にありがとうございます! みなさん大好き!(*゚▽゚*)

 

 そんな感謝の気持ちを込めて、「リプトンは口実に」の後日談(大学進学前)をちょこっとアップしておきます。女子高生みさちゃんと薫殿が、春休みにお買い物にいくお話。

 pixivのコメントでいただいた、蒼紫&操の京都大学篇は、リクエスト企画が終わったあと、くらいに書くかもしれないっす!

 

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 「薫ちゃん、これはやっぱダメだよ」
 「えっ、なんで!? 似合うじゃない!」
 グレーのカーテンを半分開けながら、巻町操はややげんなりした顔を、神谷薫は心底驚いた顔をしていた。
 ところは女子で賑わうファッションテナントだ。春休みの期間だからか、若い――操や薫のような女子高生ほどの女の子が目立つ。二人はそのテナントの試着室にいた。
 「色もいいと思うけど」
 「うん……色は好きなんだけど。カーキかわいいよね」
 「うん」
 「でも丈がさぁ」
 操がひらりと足を覗かせた。カーテン越しに見てみれば、操の足首はすっかりガウチョパンツに隠れている。
 「足首見せってなってるのに……あたしチビだからなあ」
 「見てるぶんには、あんまり気にならないけど?」
 「でもなんか着せられてる感じしない?」
 「そう……言われれば見えなくもないかな。操ちゃん細いから、腰もちょっとゆるそう」
 「細くはないけどゆるい。違うねこりゃ」
 「別のお店のにしようか」
 「だねえ」
 操はへへっと笑ってカーテンを閉めた。ロング丈のパンツです、と言えばいいような気もするが……と薫は思う。まったく似合っていないわけではないのだから、ちょっと勿体ない。
 4月からの大学生活に向け、服欲しくない? と言い出したのは操だった。それまでさほど服装にはこだわっていなかった彼女だから、話を聞いたときは正直意外だった。薫も無事志望校に合格し、そろそろ新しい服をと思っていたのでグットタイミングだったが。
 「あ、ねえ操ちゃん」
 「んー?」
 カーテンの奥でごそごそしている操に、薫は訊いてみた。
 「お買いものだったら、なにも私とじゃなくてもよかったんじゃないの?」
 「え、なに、どういうこと?」
 「ホラ。彼氏と来ればいいじゃない」
 にやり。薫の笑みは、操には見えない。
 受験期の薫の密かな癒しは、このお転婆な友人のウブな恋愛模様であった。いつのまにか、それも他校の男子と(二人が通うのは女子高だから当たり前だが)、しかも一目惚れで、あの操が。尋問で徐々に明らかになってくる“お相手”はといえば、三高の高身長イケメンだという。そのイケメンが、操が京都に行くなら自分も行くと言い出すなど。
 なんだそのすごい展開は。二次元か。漫画か。これが楽しくないわけがない。薫は、模試と赤本に嫌気が差したとき、決まって操に「最近どうなの?」と問いただした。毎回ちょっとずつ進歩していくのだから面白くてしょうがない。
 「あー、蒼紫さん……なんかねえ」
 ところが今日の操の口ぶりは、いつもと違って元気も照れもない。もしかして、誘ってみたけど断られたパターンだろうか。

 「なんか、なに?」
 「あんまり参考になんなかったんだよね」
 「あ、来たことあるのね」
 思わず本音が口を突く。しかしこれは操には聞こえなかったらしい。
 「ほら、男の人って、女の子の買い物に付き合うの嫌だっていうじゃん?」
 「中にはね」薫の彼氏は、まったくそんな素振りは見せない。つくづく女子力の高い彼氏だ。
 「だから飽きちゃったんだと思うんだ」
 「なんか言われたの?」
 「そう」
 操がシャッとカーテンを開けた。丈の長いガウチョを腕にかけて、なにやらしょんぼりした顔で――
 「そりゃちょっと本気で服探したあたしも悪かったと思うんだけど。でもせっかくだから可愛いな~と思われるのにしたいじゃない? でも最初っから最後までさ、感想が『似合っている』ばっかりなんだよ。どれが可愛いと思う? って聞いても、『全部』とか言わ」
 

 れ、

 


 て、

 

 そのときの操の話しぶりを表すなら、このくらいの改行がふさわしい。
 「…………操ちゃん、詳しく聞く」
 「ま、まって、あたし今なんて……!?」
 「何着ても可愛いって言われたって言った」
 「いやっ! あのあの、そういうんじゃない……! と思う……!」
 「そうじゃないってなによ? ん? 操ちゃん? サーティワン奢ったげるから行こう? ね?」
 「ちがうちがうちがう……!」
 口に出してみて初めて、自分が言われたことのとんでもなさに気づいたようだ。

 首まで真っ赤にする操を連行しながら薫は、音読は最強の暗記法だぞ、と言っていた英語教師を思い出した。