monaho

monahoって、エスペラントで、僧侶の意味なんですって。

話すは恥だが気にならない

 みなさん、火曜10時「逃げるは恥だが役に立つ」、ご覧ですか。

 うちでは毎週観ています。家族は毎週奇声を上げています。最高ですよね!!!ホシノゲンが!!!ガッキーが!!!あああ!!!!

 私の友だちにもう何年も前からのホシノゲンファンがいるのですが、彼女は第2回で既に半死でした。人を殺せるほどの暴力的な可愛さだと遺言を残してくれました。

 ちなみに彼女のせいで私は星野源をホシノゲン、あるいはホシノゲンと宇宙人みたいな呼び方しかできません。

 さてさて.

 

 あのドラマとは関係のない、四乃森Jr.のお話です。

 下ネタ?R指定?な感じ?(もちろん蒼操的な意味で)ですので、あんまりアレな方はアレです~~!(どれだ)

 

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 「……でね、そのとき、褌一丁で出てきたのよ!」

 「やだあ~!」
 女子の悲鳴が上がる。非難四分の一、呆れ四分のー、笑い半分といったところか。
四乃森若葉の姿もそこにあった。ところは東京である。恒例の東京見物の際に、若葉は母譲りの懐っこさで友だちを作っていた。友だち、といっても、たまたま甘味処にいた同じ年頃(のはず)の女の子たちなのだが。店が混んでいたので、相席よろしいですか、と声を掛けたのをきっかけに、なんやかんやと盛り上がっている。
 女の話はとかく忙しない。東京の話、京都の話、学校のことから先生の話、そう言えば先生がこのあいだうちにいらしてね、と誰かが言って、今は父親の話題に花を咲かせている。満開である。
 「うちなんかお風呂に入ったあともそうよ」
 「確かに! あたしのとこもそう。ほんとに何なのかしら、年頃の娘がいるってのに」
 東京の女の子は遠慮がない、と若葉は笑いながら思った。京都の学校の友だちは、同じ愚痴を言うにも、やんわりと遠回し遠回しに言葉を選んでいる。思ったままを言ってがーっと(決して彼女たちを馬鹿にしているわけではない)笑う、そのさっぱりした感じが、若葉は好きだった。なんとなく操に近いものを感じるからだ。確か母様は江戸で育ったんだものね。
 「ねえねえ、若葉ちゃんちは?」
 「えっ?」
 「若葉ちゃんちのお父さんよ! どんな人?」
 「お腹出して寝たりする?」
 「お風呂上がり褌でいる?」
 みどりという子が肩を震わせながら言うと、皆がまたどっと沸いた。若葉もくすくす笑う。
 「残念だけど、父様はそういうことなさらないの」
 「えーっ、そうなの!?」
 「京都のお人はやっぱり違うのね」
 「ううん、父様生まれも育ちも江戸……東京よ」
 「嘘! 東京の人なのにしないの?」
 同じ人間とは思えなーい、と彼女らの視線がきらめく。生まれてから育つまでがっつり御庭番衆の教育を受けているから、とか、余計なことは言わないでおく。そういう点では、ある意味蒼紫は浮世離れしているのだ。皆の父がするようなことを一切しないのは、そもそもそのような振る舞い自体を知らないのではないのかしら、などと思う。
付け加えておくが、若葉の蒼紫を見る目は操製である。乱暴に言えばたまに彼を人間として見ていないようなこともある。無論いい意味で。
 「爪楊枝使ったりは?」
 「そう言えば見たことないわ」
 「酔っぱらって絡んできたり?」
 「なさらないわ。父様お酒は飲まないの」
 「嫌だって言ってるのにどこかに引っ張って行こうとしたりは?」
 「うーん……ないなあ。父様は『嫌だ』って言ったら無理強いすることないの」
 「ええぇ……」
 「なにそれ……」
 溢れる言葉は呆れぎみだが、その声音は輝いている。そんな完全無欠の父親が、この世にいるのだろうか。と、そんな気配である。
 「ね、じゃあさ、がっかりしたこと一度もないの?」
 「父様に?」
 「うん」
 みどりが真剣な顔で身を乗り出してきた。
 がっかりしたこと。若葉は唸った。なにせ理想の男性は四乃森蒼紫だと答え続けて十余年、という半生なのだ。がっかりしたことなど一度もない。けれど「ない」と答えたら、みんなを白けさせてしまうし――と必死に考えて、あ! と若葉はひらめいた。
 「がっかり、というか、なんで? って思ったことはあるよ」
 「おっ」
 「なになに?」
 「あのね」
 若葉はふふっと笑った。思い出してしまえば言葉はつらつら出てくる。
 「小さいとき、確か、怖い夢を見たんだったと思うの。なんだか一人じゃ眠れなくなっちゃって、隣に母様が寝ていたはずだから、そこに潜り込んだのね。そうしたら母様、そこにいないの」
 「お手洗い?」
 「私もそう思ったわ。でも、お手洗いにもいなかったの」
 「行ったの?」
 「行ったのよ。怖いくせにね。……そうしたらなんだか物音がして、私、父様のお部屋に行ったの。こうなったら父様と寝ようと思って。声を掛けるじゃない? そしたら」

 

 『悪いが今、猫の相手で忙しい。済んだら行く』

 

 布団で待っていろ、と言われて、父の声に安心した若葉は、大人しく部屋に戻った。もう少ししたら大好きな父様が来てくれる、と自分に言い聞かせて。
 そのとき微かに、猫の鳴くような声が聞こえたのだが。
 「でも不思議なのは、うちで猫なんか飼っていないのよ。父様が内緒で動物を飼ってるってこともないだろうし……念のためにあとでこっそりお部屋を探したけど、猫なんていなかった。あれは一体なんだったのかしら? って、未だに分からないのよね」
 「お父さんが嘘吐いた、ってこと?」
 「うーん」若葉は軽く眉に皺を寄せた。「父様、嘘吐くような方じゃないんだけど……」
 「野良猫でも入ってきたんじゃない?」
 「そうかしら」
 「でも夜中に迷い込んできた猫の相手をするなんて」
 「できた人なんだねぇ」
 感心されてしまった。
 こと親に関しての笑い話には、自分は聞き手に回ったほうが無難だな。改めてそれを実感して、若葉はにこにこしながら葛切りを掬う。
 隣の机に座っていた女性が番茶を吹き出した。

 「ね、父様、覚えてます?」
 「あったな」
 「ゆ、ゆ、ゆ、夢だよそれっ、うちに猫なんかいないじゃん!」
 「だってはっきり覚えてるんだもの。父様もそうでしょう?」
 「ああ」
 「嘘だあ~夢だってば~……」
 「でも母様、私猫の声も聞いたのよ? 小さかったけど」
 「そうだろうな」
 「野良猫が迷いこんできたのですか?」
 「ああ。随分寒かったらしい、布団に入ってきた。何が気に入ったのか、しきりに甘えてきてな」
 「それで可愛がってあげたのですね」
 「秋口の肌寒い時期だった。あれを愛でるくらいでちょうどよい」
 「やっぱり! 夢じゃなかったのよ。あれが不思議でしょうがなかったの。父様お優しい……母様? 顔が真っ赤よ」
 「なんでもないよ…………」
 「暑い? 私、お水もらってきますね」
 「……うん、お願い……」


 「……」
 「……」
 「……あの猫、最近は来なくなったな」
 「……」
 「どこへ行ったか知らぬか」
 「……知らない……」
 「そうか」
 「…………」
 「俺にはいくらか心当たりがある。お前も探しに行くか」
 「…………」

 「なんだ」

 「……すけべ」

 「鼬と言ったほうが良かったか」

 「…………」
 べし。操の手刀が、弱々しく蒼紫の脳天を叩いた。