monaho

monahoって、エスペラントで、僧侶の意味なんですって。

振りかざす愛情は凶器

                         title by 彼女の為に泣いた

 

 ダークな上、オチがありません。あおみさですが幸せじゃないです。ごめんなさい。

 あとちょっとだけ大人向けの表現がございますのでご注意ください。

 

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 「どこへ行く」
 夢うつつに布擦れの音がして目が覚める。布団から腕だけ出して操を制止した。昨晩は愛し合ったまま眠ってしまって素肌である。対して操は、俺が整えてやったから寝間着を着ていた。その袖を捉えたのだった。
 操は膝立ちの体勢で俺に捕まり、ゆっくりとこちらを見下ろした。目が合うと愛らしく微笑んでみせる。半分眠ったままだが、その可愛らしさについ頬が緩んだ。彼女の手が降ってくる。小さくしなやかな手のひらが、俺のこめかみから頭を撫でた。
 「ちょっとお手洗い」
 俺も腕を伸ばし、操の頬に触れる。頬から顎。首。うなじ。順にさするように撫でると、操はくすぐったいのか、きゅっと俺の手のほうに首を傾げた。恥じらいつつ微笑むさまが、また美しい。さらさらと手の甲を流れる髪が絹糸のようだと思った。
 「そうか」
 「うん」
 俺は操の首から髪へと指を差し入れた。髪の毛を人差し指に巻き付けるように弄びながら、ゆっくりと彼女から手を離す。操も俺の頭を撫でるのをやめ、代わりに屈んできて俺の額に口づけた。かすめるような口づけのあと、ふっと顎を引いた彼女の額に俺も口づける。操がくすりと笑うのが聞こえた。
 彼女はそのまま立ち上がり、すらりと障子を開いて部屋を出て行った。俺はまた目を閉じる。布団はまだ温かかった。操の体温は、何よりの睡眠剤だった。

 

 明くる日、操は忽然と姿を消していた。
 目が覚めると隣に操はおらず、部屋の中にもいなかった。起き上がってくるりと辺りを見回しただけですべてが理解できた気がした。身支度を調えるのももどかしく、雑に寝間着を身につけて縁側へ出る。中庭は恐ろしいほどに静まりかえっていた。
 操の気配が、どこにもない。
 手当たり次第に部屋を探し回ればよかったのかもしれない。だが不思議とそんな気は起きなかった。俺はまっすぐに裏口に向かった。なぜだかは分からない。ただ夢中だった。必死で裏口へ駆けると、翁がいた。戸口を向いたまま動かない。
 「翁」
 俺の声にも応えない。ひやりと嫌な風が吹いた。ほんの少し前まではそこに彼女がなくとも思い出せた操の温もりが、風に当たるたびに消えていく。やめてくれ。奪わないでくれ。
 「翁」
 俺は唸るように再び声をかけた。翁はようやくこちらを振り向いた。指の一本も動かせなかった。体の中が空洞になったようだった。風が、翁の目が、昨晩までの操が、ひたりひたりと静かに体を吹き抜けていく。