monaho

monahoって、エスペラントで、僧侶の意味なんですって。

危なくない刑事・2

 ス、ス、スクエア、あ、あ、明日~~!!

 日曜8時になってもどきどきです。日曜8時といえば、先週から突如勝手に始めたこの企画。

 

 お題拝借:「茨姫」さま(http://ibarahime0.nomaki.jp/

 「5個で1つのお題」より「あ~わ行でハードボイルド」

 

 今日は2つめですっ。

 例によってオリジナルサブ・七塚紅が、斎藤一(藤田五郎)さんと絡んでいますので、苦手な方はごめんなさい…!><

 

 「02.律儀な奴ほど馬鹿をみる」

 

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 池田という後輩がいる。年は八つだか九つだか下で、警官になってまだ二、三年の男だ。彼はどうにも人がいい。とうにも、というのは――紅としては、彼の人のよさはとても微笑ましいものなのだが、署ではそうは受け取られないのだ。なにかと雑用を押しつけられ、いいように使われ、同期からも一つ下に見られている。そのくせ素直で一生懸命なので、周囲の扱いは一向に変わらなかった。自分がそんなふうに思われているというのを知ってか知らずか、ついには紅の心配(紅はよく上司に呼び出されている)までしだす始末。紅は池田の教育係であったから、そんな池田の様子を、どうしたものかと思いながら見ていた。

 

 

 「藤田警部補は、いつもお一人で任務を受けられるのですか?」

 蕎麦屋など注意して探したのは初めてだが、わりと屋台は出ているものだ。

 藤田が入った屋台に紅も従う。夜も更けてきたので客はいなかった。藤田が蕎麦を二杯頼むと、店主は余程暇だったと見える、すぐにかけそばが出てきた。夜食に蕎麦は丁度いい。いづみ屋では酒と、つまみ程度の膳が出たが、食事にはほとんど手をつけなかった。

 「どういう意味だ」

 「今回もお一人で来られたでしょう。そうしてお一人で行動されることが多いのかと思いまして」

 藤田は特に言葉もなく、蕎麦をすする。紅は紅で軽く手を合わせてから、箸を取った。そのまま無言で食事をしていたのだが、ふと思い立って、紅が冒頭の問いをしたのだった。藤田は驚くでもなく息を吐いて、まあな、と返事をした。

 「面倒事を持ちかけられるたちでね」

 面倒事には人数は要らねえだろう。そういうこった、と藤田は言った。確かにそうだ。今回だって初めから大人数で動いていたら、八鍬に勘付かれていたかもしれない。その、余計な人員を削る中で、自分を選んでもらえたのは嬉しかったなあと思う。つくづく昔の蒼紫の言葉が沁みた。

 「信頼があるのですね」

 「当然だろ」藤田は器を向いたままあっさりと言った。「俺は真面目に仕事するのが売りだからな」

 「……それで、皆が正しく評価されるとよいのですが」

 真面目に動けば信頼が得られるのなら、どんなにいいだろう。自分でもなぜそこが引っかかるのか分からなかったが、ふとそんなことを思った。たとえば、池田。もっと評価されて然るべき男が、狡猾さに勝てずにいる。正直者が馬鹿を見る世の中だ。世知辛い。紅は蕎麦をすすった。人間と人間のあいだも、あちこちの事件も、蕎麦のように単純な一本道であればいいのに。

 「阿呆が」

 藤田が鼻を鳴らした。おや、と紅は顔を上げる。そんなに気に障ることを言ったろうか。

 「いつ何時もいい子でやりゃいいってもんじゃあない。そいつは損する奴のやり方だ」

 「損」

 鸚鵡返しに呟いた。損か。損得の基準は人によるとしても、池田のような場合は、確かに損をしていると言うのだろう。

 「真面目に仕事すりゃ喜ぶ奴がいる。そういう男の下にいてこそ、本気で動くもんだ。適当な理由つけてこっちを見もしねえ野郎は――、そういう奴は、掌で転がしときゃいい」

 言って藤田は、喉の奥で嗤った。……できた人だ。決して褒められた構え方でなくとも、怠けるでもなし、強固な処世術でもって生きている。感心して、次に紅は、可笑しくなった。藤田のことだ。きっと”転がされている”相手は、自分が藤田の掌の上だとは気づかないのだろう。あくまで自分が上に立ったまま、藤田を使っている気になっている。

 「いいことを聞きました」

 可笑しいのでつい笑ってしまったが、本心だった。池田に言って聞かせたところで、根が真直ぐな彼に実践できるとは思えないが。

 「お前も似たようなことはしてるんだろう」

 「え、そう見えますか?」

 「ふん。とぼけた面でよく言うぜ」

 食え、伸びる、と顎をしゃくられ、紅は苦笑しながら麺をすすった。食べるために俯くと、今日の格好が、そういえば変装であったことに気づいた。羽織は父からの借り物だし、着物もそこそこいいものだ。血でも跳ねていないかな、と唐突に不安になって、ああ、そういえば自分は酔っていたんだと思い出す。それならば思考が多少散らばろうと仕方ない。

 ――警部補は、

 早くもつゆを飲んでいる藤田を横目で見て、紅は思った。

 ――使えない相手を掌で転がすと言ったけれど、まさかここの屋台の親父に、勘定をごまかすようなことはしないのかな。

 いやそんなわけがあるかと、即座に自分で切り捨てた。酒が入ったら何でも口にしてしまう人がいるが、自分がそうでなくてよかった。

 ……そんな考え事も場違いだったと紅が気づくのは、翌朝になってからのことであった。

 

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 紅がいくら酒に強いと言ったって、多少ぼんやりしちゃうくらいはイイヨネッ。

 警官と商人ふうの男が、夜更けに蕎麦食べに来たら……こいつらなんなんだ、と思いますね。私なら。